薬局の売上の大部分を占める調剤報酬は、調剤した月にすぐ入金されるわけではありません。黒字なのにお金が足りない、という状態が起きやすいのはこの「時間差」があるからです。この記事では、調剤報酬の入金の仕組みと、運転資金・手元資金の考え方を整理します。
調剤報酬は「翌々月」に入金される

患者さんの窓口負担(1〜3割)はその場で受け取りますが、残りの7〜9割は審査支払機関に請求し、後から支払われます。社会保険分の支払予定日を見ると、たとえば令和8年9月調剤分は11月20日、10月調剤分は12月22日の支払いです。国民健康保険団体連合会の分も、おおむね同じ時期に支払われます。なお、社会保険分の審査・支払をしてきた社会保険診療報酬支払基金は、2026年10月1日に「医療情報基盤・診療報酬審査支払機構」に名前が変わりました。
| 調剤した月 | 請求 | 入金(社会保険分の支払予定日) |
|---|---|---|
| 令和8年8月 | 9月10日まで | 10月21日 |
| 9月 | 10月10日まで | 11月20日 |
| 10月 | 11月10日まで | 12月22日 |
| 11月 | 12月10日まで | 令和9年1月21日 |
出典:医療情報基盤・診療報酬審査支払機構(旧 社会保険診療報酬支払基金)「診療報酬等の支払予定日」(2026年2月9日更新)、同「診療報酬等の請求日及び納入期日」
出ていくお金は毎月やってくる
一方で、医薬品の仕入代金、スタッフの給与、家賃、借入の返済は毎月発生します。つまり薬局は、売上の7〜9割が入ってくる前に、約2か月分の支出を立て替えている状態です。
- 医薬品の仕入(卸への支払い)
- 人件費(薬剤師・事務スタッフ)
- 家賃・リース料・システム利用料
- 借入金の返済
- 税金・社会保険料の納付
資金が足りなくなりやすい3つの場面
1. 新規開局・新店舗の立ち上げ
開局から最初の入金までの約2か月は、窓口負担分以外の売上が入ってきません。その間の人件費・家賃・仕入をまかなう資金が必要です。
2. 処方箋枚数が増えたとき
売上が伸びると仕入も増えますが、入金は2か月後。成長期ほど手元資金が減りやすい、という逆転が起きます。
3. 納税・賞与・設備更新が重なる月
決算後の納税、賞与、分包機やレセコンの更新などが同じ時期に重なると、一時的に資金が不足しやすくなります。
手元資金の考え方
必要な手元資金は薬局ごとに違いますが、次の順番で考えると整理しやすくなります。
- 毎月の固定的な支出を出す:人件費・家賃・返済・リースなど、処方箋枚数にかかわらず出ていくお金
- 入金までの時間差を掛ける:固定的な支出×約2か月分は、常に立て替えているお金
- 予定している大きな支出を足す:納税・賞与・設備更新・新店舗など、1年以内に予定しているもの
会社のお金と個人のお金を分けて考えることも大切です。役員報酬を決めるときは、会社に残すべき運転資金を先に確保してから、個人の生活費を考える順番がおすすめです。
計算してみる:手元資金の目安(架空のモデルケース)
上の3ステップを、1店舗の薬局(架空)に当てはめてみます。数字は考え方を説明するための例です。
| ステップ | 内容 | 金額 |
|---|---|---|
| 1. 毎月の固定的な支出 | 人件費200万円+家賃・リース・システム50万円+借入返済30万円 | 月280万円 |
| 2. 時間差を掛ける | 280万円×約2か月 | 560万円 |
| 3. 1年以内の大きな支出 | 決算後の納税300万円+冬の賞与200万円+分包機の更新400万円 | 900万円 |
| 合計 | 常に手元に置いておきたい資金の目安 | 約1,460万円 |
医薬品の仕入は処方箋の枚数によって変わるため、ここでは固定的な支出と分けています。仕入が多い月や、在庫を厚めに持つ時期は、そのぶん上乗せして考えます。
3か月先までの「資金繰り表」をつくる
手元資金の目安が分かったら、次は月ごとの出入りを見える化します。難しい表でなくても、次の3行を3か月先まで書くだけで、資金が薄くなる月が見えてきます。
| 今月 | 来月 | 再来月 | |
|---|---|---|---|
| 入ってくるお金 | 窓口負担分+2か月前の保険請求分 | ||
| 出ていくお金 | 仕入・人件費・家賃・返済・納税など | ||
| 月末に残るお金 |
資金が薄くなる月が分かれば、早めに借入を相談したり、設備の更新時期をずらしたりと、打てる手が増えます。公的融資の基本は薬局の運転資金、借りる前に知っておきたい公的融資の基本で紹介しています。
たとえるなら、薬の「効き始めるまでの時間」
飲み薬は、飲んですぐに効くわけではなく、効き始めるまでに時間がかかります。その間のつらさを和らげるために、別の手当てを組み合わせることもあります。調剤報酬も同じで、売上が立ってから入金されるまでに約2か月の「効き始めるまでの時間」があります。その間をつなぐのが手元資金です。
まとめ
- 調剤報酬の7〜9割は、調剤した月の翌々月に入金される
- 薬局は常に約2か月分の支出を立て替えている
- 開局・成長期・納税月は資金不足が起きやすい
- 手元資金は「固定的な支出×2か月+1年以内の大きな支出」で目安をつかむ
- 3か月先までの資金繰り表で、薄くなる月を先に見つける
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※本記事は一般的な情報提供を目的としています。個別の税務判断は顧問税理士に、制度の詳細は各運営機関にご確認ください。特定の金融商品をおすすめするものではありません。制度の内容は2026年10月時点のものです。

